揚水式発電所とは、発電所の上部と下部に水を貯える調整池をつくり、電力需要が大きい時間帯には上部から下部へ水を流下させて発電し、電力需要の少ない時間帯には、余剰電力で水車を逆回転させて下部から上部へと水を汲み上げておき、再び発電に使うという仕組みの水力を利用した大きな蓄電池です。
水力発電なので、短時間での起動・停止や出力の増減が容易に行えます。そのため、事故などにより大規模な電源が脱落した場合や予測以上に需要が増加した場合の電気が不足した際の緊急用設備としての役割を担っています。また、予備電源を使用しての運転起動(ブラックスタート)ができる発電所では、上池に十分な水が貯えられていれば最大出力での運転も可能となるため、大規模停電時の電力系統復旧用の初期電源としての役割も担っています。日本では、1960年代から相次いで建設されるようになり、現在では総出力2600万kW以上の設備があります。
ベースロード電源として原子力発電所が一定の出力で運転していた状況下では、夜間は需要が下がることにより、余剰となる安価な電力を利用して揚水し、電気が必要となる昼間に運転するという運用で揚水発電所に一定のコストメリットがありました。しかし、2011年の東日本大震災以降は、原発の再稼働は難航し、安価な余剰電力が減少したため、揚水発電所のコストメリットが薄れてきています。
その一方で、地球温暖化対策の面から太陽光や風力のような再生可能エネルギーに注目が集まり、2012年に施行された固定価格買取制度(FIT)を利用して大量導入が進んできていますが、再生可能エネルギーは系統の電力品質へ影響を及ぼすほどにその出力が天候に左右されることが課題となっています。その課題を揚水発電の運用によって解決する動きが注目されています。
太陽光発電を導入している一般家庭においても、昼間家庭で使わない電力を蓄電池や電気自動車のバッテリーを活用して夜間に使用する電力とするように、大規模な太陽光発電や風力発電で電力需要以上に発電してしまった電力を利用し揚水し、太陽光発電の出力が落ちる夕方以降に水を流下し発電するような運用をすることにより需要と供給のバランスを図ることができるというものです。
しかし、揚水発電所では、揚水運転をするためには発電する量以上の電力が必要となります。各種市場が整備されつつありますが、経済性確保が難しい設備でもあります。
電気を安定的に使うためには、電気を使う量と発電する量が同時同量でなければなりません。今後、エネルギーミックス達成のために再生可能エネルギーをさらに増やすためには、調整力が必要となります。電力業界を取り巻く環境の変化に伴い、役割が変わりつつある揚水発電が有効利用されることを期待するものです。